最低賃金引き上げと外国人雇用――行政書士が解説する法的注意点と実務対応


最低賃金引き上げと外国人雇用――行政書士が解説する法的注意点と実務対応
目次
2025年度、全国的に最低賃金の引き上げが決定しました。人手不足の解消に向け外国人材の受け入れを進める地域や企業にとって、最低賃金の改定は無視できないテーマです。本記事では、最低賃金引き上げが外国人雇用に与える影響と、関連する労働法令を踏まえた注意点を整理します。
最低賃金制度の基礎知識
- 根拠法令:最低賃金法
- 原則:使用者は労働者に対して、地域別最低賃金額以上の賃金を支払う義務があります。
- 違反時のリスク:最低賃金未満での雇用契約は無効となり、差額支払い義務が生じます(最低賃金法第4条・第6条)。
最低賃金制度の基礎知識(地域別)
三重県の最低賃金は、2025年9月時点で 時給1,023円です。さらに、2025年度には 64円引き上げられ、 時給1,087円となる予定で、これは 1990年以降最大の引き上げ幅です。施行日は 2025年11月21日からが予定されています。地域別最低賃金法に基づき、使用者にはこの額以上の賃金支払い義務があります。
外国人雇用への影響
- コスト増加による経営負担
外国人労働者を多く雇用する中小企業にとって、人件費増加は大きな負担となり得ます。特に製造業や介護業など、外国人材比率が高い分野では注意が必要です。 - 技能実習・特定技能分野への影響
技能実習や特定技能制度では、労働条件が厳しく監督されており、最低賃金を下回る賃金設定は直ちに法令違反となります。監督官庁による指導や、受入れ停止処分のリスクがあります。例:ある製造業者が最低賃金改定後に対応せず、外国人技能実習生から労基署へ申告され、是正勧告を受けた事例があります。 - 日本人労働者との均等待遇
外国人労働者にのみ低賃金を設定することは差別的取り扱いとされ、労働基準法第3条(国籍による差別禁止)に抵触します。最低賃金の遵守はもちろん、同一労働同一賃金の観点からも注意が必要です。 - 労働条件通知書・雇用契約書の更新
最低賃金引き上げ後は、賃金額が変更される場合、労働条件通知書や雇用契約書の改定が必要です。外国人労働者向けには母国語(インドネシア語、ベトナム語など)での説明資料を準備することが望ましいです。
企業が取るべき対応
- 最低賃金改定後の賃金シミュレーションを実施し、労務コストを再計算する。
- 労働条件通知書や就業規則を速やかに改定し、全従業員に周知する。
- 外国人労働者への説明責任を果たすため、多言語対応資料を活用する。
- 違反が発覚した場合の行政処分・企業イメージ低下を防ぐため、事前に労務管理を見直す。
まとめ
最低賃金の引き上げは、日本人労働者だけでなく、外国人労働者の生活にも直結する重要なテーマです。行政書士としては、労働基準法や最低賃金法を踏まえた適法な雇用契約の整備、外国人へのわかりやすい説明、そして企業のコンプライアンス支援を通じて、外国人雇用の健全な発展に寄与するとともに適法な在留管理への寄与が求められます。
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